大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和30年(ワ)4064号 判決 1963年4月01日

原告 水野吉太郎

右訴訟代理人弁護士 久保泉

右訴訟復代理人弁護士 坂東平

被告 浅野商事株式会社

右代表者代表取締役 浅野喜和子

右訴訟代理人弁護士 田中昌治

主文

被告は原告に対し金八万参百八拾円及びこれに対する昭和三十年十月二十一日から右支払済に至る迄年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は金壱万円の担保を供するときは仮に執行できる。

事実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決並に仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

「一、原告は勤務先である大阪東部鋳物事業協同組合(大阪市東住吉区加美旭町六番地)事務所内の原告使用机の中に、別紙目録記載の原告名義の株券(以下本件株券という。)を入れてこれを占有していたところ、昭和二九年七月五日夕刻から同月六日朝に至る間、訴外肥塚靖(後日判明)によつて同事務所内の自転車、扇風機等とともに、本件株券を窃取された。

二、そこで、原告は、同月六日、八尾警察署、株券発行人である訴外松竹株式会社大阪支店及び大阪証券取引所に、本件株券が前項のように盗難にかかつた旨を夫々届出た。

三、前記肥塚は、同月八日、被告会社に赴き、原告の名を騙つて金融の依頼をなし、被告会社との間で、本件株券について代金六〇、〇〇〇円、買戻し期日同年同月三一日とする旨の買戻約款付売買契約を締結し、被告会社は右代金支払と引換に訴外人より本件株券を受取つた上、右買戻期日に原告が右買戻に応じないとしてこれを取得したと主張した。

四、しかし、原告は本件株券を被告会社に対して売渡したことはなく又、右肥塚靖を含めて、何人に対しても本件株券の売買についての代理権を与えたこともないから、被告会社が原告との間で締結したという前記売買契約は無効である。

五、しかるに被告会社は昭和二九年八月四日、本件株券を代金八〇、三八〇円で他に売却しその代金を受領していて、原告が被告会社に本件株券の返還を求めてもすでにこれは不可能であるから原告は被告会社に対し右返還に代えて右受領代金相当の金員とこれに対する本訴状送達の翌日である昭和三〇年一〇月二一日以降右完済まで年五分の割合による損害金の支払を求める。

六、(1) 被告は本件株券を取得するについて、商法第五一九条の適用があると主張しているが、同条は「金銭其他の物又は有価証券の給付を目的とする有価証券」に関する規定であるところ、本件株券は「株式会社という社団における社員たる地位を表彰する株券という有価証券」の問題であるから同条の適用はない。

(2) つぎに、被告は本件株券の取得には小切手法第二一条、商法第二二九条が適用されると主張しているが、これらの条項は動産の即時取得におけると同じく、その小切手なり株券を取得した者にこれらの小切手、株券を譲渡した独立の無権利者の介在を必要とするところ、本件にあつては肥塚靖が原告の代理人として本株券を被告会社に処分したもので、同人の右所為は無権代理行為で無効のものである。

七、仮に、右主張の理由がなく小切手法第二一条、商法第二二九条が問題となる場合であるとしても、被告会社は原告の代理人と称する肥塚靖から代理権を証する書面の提出も受けていないし、本人であるかどうかを確認する方法として単に健康保険証書を提出させただけであり、代理人の身許を確認する方法は何等講じていないところで、肥塚靖は被告会社以外の質店に本件株券を持参したときには挙動不審で怪しまれている位であるから、被告会社の本件株券の取得には、悪意又は重大な過失があるものといわなければならない。従つて同条項の適用はない。」

と述べ、立証として≪省略≫

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、請求の原因に対する答弁として、

「(一) 被告会社は質及金融業を営む商事会社であるが、昭和二九年七月七日、二七、八才位、長面やせ型、身長五尺四寸位の男が来て自ら原告の弟である旨申出た上、松竹株式会社株券百株券五枚を示し金融を依頼したので調べたところ、うち三枚は発行当時よりの所有者である原告名義で、裏書はなく、他の二枚は発行当時の所有者訴外神谷芳名義より原告名義に変更された裏書記載があつてその名下に原告の印鑑が押捺されてあり、且つ、株主名簿に登録の証欄には松竹本社の名義変更承認の印が押捺されてあつたので、被告会社はさらに住所を確認し得る証明物と右株券に押捺されてあるものと同一の印鑑があれば金融に応じてもよいと答えたところ、同人は翌八日、前記株券五枚、保険証書(昭和二八年七月一日付大阪府社会保険出張所発行、原告肩書地、原告名及び原告の生年月日の表示がある。)及び水野と彫刻されたる印鑑とを持参して示したので、被告会社は住所の確認、印鑑の照合をなし、さらに同人の氏名、年令を尋ねたところ水野義文二八才との回答を得たので、同人は原告の代理人と信じて疑わず、原告主張のような買戻約款付売買契約を締結し代金と引換に本件株券を受取つたが、買戻期日も徒過したものである。

(二) 被告会社は以上のとおり正当に本件株券を取得したものであるから小切手法第二一条、商法第二二九条、第五一九条の適用を受ける正当な権利者である。」

と述べ立証として≪省略≫

理由

証人肥塚靖の証言≪中略≫によれば原告主張第一乃至第三項、被告主張第(一)項の各事実、原告が肥塚靖に対し本件株券の売買について代理権を与えたことのないこと、被告会社は、昭和二九年八月三日、原告の訪問を受け、本件株券が盗難にかかつたもので、警察署に出頭してほしいと申向けられたこと、被告会社は翌四日、その頃売却の話をすすめていた訴外大阪商事株式会社に対し代金八〇、五〇〇円(取引税一二〇円込)で本件株券を売却したことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。ところで株券は無記名の場合も、記名式で裏書譲渡される場合も、また記名式で譲渡証書によつて譲渡される場合も、商法第二二九条によつて小切手法第二一条が適用され、その限りにおいて即時取得が認められるところであるが、これを本件についてみるに、前記認定事実に徴すれば前記肥塚は本件株券の本来の所有者である原告から本件株券売却について依頼を受けたこともないのに原告の代理人として原告のために被告会社との間で売買契約を締結したというにすぎないのであつてこの場合は即時取得の問題となるものではなく、単に無権代理の問題というべきものである。そうだとすると被告会社において本件株券の所有権を取得したものと認めることはできないから被告会社が本件株券について原告からこれが盗難にかかつたものであるとの申出を受けながら敢てこれを他に売却した(この場合はその買受人において即時取得の問題が起る)ため、原告が本件株券の所有権を喪失するに至つたことについて、被告会社としては原告に対し少くとも過失による責任を負うものといわなければならない。

よつて被告会社は原告に対し本件株券の売却代金のうち金八〇、三八〇円及びこれに対する売却後である本訴状送達の翌日(本件記録に徴し明らかなとおり)の昭和三〇年一〇月二一日以降右完済まで年五分の割合による損害金の支払義務があることが明らかであるから本訴請求はその理由あるものとしてこれを認容することとし、民事訴訟法第八九条(訴訟費用の負担)、第一九六条(仮執行の宣言)を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 中村捷三)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例